映画『ペット・セメタリー』(2019) 原作小説や1989年版映画との違いを解説。

今回は2019年公開のリメイク版『ペット・セメタリー』を紹介する。

正直、設定やストーリーが浅く見えてしまう映画で、オリジナル版に比べて情緒的な演出の質は劣る。
しかし、“リメイク版として求められること”その課題全てをクリアしたように思える素晴らしい映画でもあるのだ。
是非みなさんにもご視聴していただきたい。

ペット・セメタリー (2019) (吹替版)

ペット・セメタリー (2019) (吹替版)

  • 発売日: 2020/05/01
  • メディア: Prime Video

リメイク版の魅力(ネタバレなし)

恐怖を煽る演出が全体を通してかなり多め。
現代風で過激な、カルト、スプラッター、バイオレンス、幽霊、あらゆる恐怖を網羅していて、良くいえば観客を飽きさせない、悪くいえば欲張りすぎで底が浅い演出となっている。受け身で見る分にはとても良いエンターテイメント。

また、リメイク映画として見れば、オリジナルが既にあるからこそ出来ることを突き詰めた、すべてのリメイク版の鑑のような映画。
映画の中に誰もが知るホラー映画のオマージュ的なシーンがあったり、オリジナルや原作小説をを見た人だけが楽しめるシーンがあったり、ストーリーの改変があったり、良くここまで盛り込んだなと感嘆するほど。
引き込むオリジナル版に対して、打ち出すリメイク版といった感じ。全く別の趣向を凝らし、オリジナル版の雰囲気が苦手な人にも、広く受け入れられるような作品。
作品全体の印象は『フッテージ』に近い。

ストーリーのあらすじ

家族と田舎に引っ越した医師ルイス(ジェイソン・クラーク)。新居の裏には謎めいた動物の墓地“ペット・セメタリー”があった。
ある日、飼い猫が事故にあうと、墓地を越えた奥深くの森で猫を埋葬する。しかし次の日、凶暴に豹変した猫が姿を現わした。
その地は、先住民が語り継ぐ秘密の森だったのだ。そして迎えた娘エリー(ジェテ・ローレンス)の誕生日、彼女は交通事故で帰らぬ人に…。
果たしてルイスの取った行動とは――。


 

スティーブン・キングのインタビュー

こちらはリンクになるのですが、スティーヴン・キング氏がペットセメタリーに抱いている想いが綴られています。
この想いを知ると映画がさらにおもしろく見れますのでおすすめの記事。
https://news.yahoo.co.jp/articles/84236bc3a103744f32919fa7ac75c922c2a414cb
 


原作小説から、ストーリーの補足(ここからネタバレ)

(筆者はまだ上巻しか読めてないので、いずれ下巻を読んでから書き換えます…)


人の心の土壌は岩よりも硬いとは
パスコウの死に際の台詞
『人の心の土壌は、もっとかたいものだよ、ルイス、』
この意味深な言葉は、後にジャドからも語られる。

「今夜我々のしたことはなんだったんです?」
チャーチを埋めた後、
そう問いかけるルイスにジャドは、

『質問しすぎだ、人は正しいと思うことをしなくてはいけない。それは正しいことだったか?と疑問に持つより、なぜそんなことを疑念に思うかを疑うべきだ。そして人の奥底にあるそういうことをみだりに口にだすものではない。
それらは秘密の事柄なんだ。
女も秘密を持つ。しかし、人の心に関心のある女でも、その秘密は読み取れない。
人の心の土壌は、もっと硬いものだよ。
ちょうどさっきのミクマク族の埋葬地、あそこの土がそうだったように。
人はそこになんでも植えられるものを植える、そしてそれを大事に育てる。』

要約するとそのようなことを答える。

この作品の冒頭では、『死はひとつの神秘であり、埋葬は秘儀である。』とも語られていることから、
植えられているものは秘密であることがわかる。

“男は秘密を守る。
その決意は硬く、女には読み取れない。”

“男は誰にも悟らせず、秘密を育てていく。”

という解釈になるのではないか?
回りくどい話だが「女房には話すな」
ということだ。



男の秘密とは男の値打ちでもある

猫を埋めた翌日ジャドからの手紙
『さしあたり言っときたいのは、ゆうべしたことによって、あんたは自分の値打ちを証明したってことなんだ。』
 自分の値打ちとは、家族の誰も知らない男の秘密を持ったこと。
それにより男の、父親としての値打ちが上がったというわけだ。



ミクマク族の埋葬地との関連性

ミクマク族の埋葬地はウェンディゴが土を腐らせた。
という言い伝えの真実は、北部一帯のインディアンの男達は食糧不足に陥ると、ウェンディゴが人を拐う等と言い、自分達が拐った人の肉を家族の生存のために食べさせていた。
その骨を例の埋葬地に埋め、土が腐ったと触れ回り埋葬地から家族を遠ざけた。

おそらくその真実が、家族に言えない男達の秘密であり、ルイスまで、長年受け継がれてきた秘密なのだ。
そして、あの埋葬地はルイスの物になった。

(なぜ埋めた者が蘇るのか、それは上巻には描かれてなかったので、後日書き出します…
致し方ない…)

 

原作小説より、主要キャラクターの補足

ジャドというキャラクター

『大抵のペットはばかで、のろまで死んだように見えるだけだった』
そして、牛を埋めたときは狂暴になった。
ジャドはチャーチが元通りにはならないにしろ、家族を傷つけはしないと思っていた。

そして、エリーが死から学べる教訓を母親が遠ざけてることも知った上で、エリーのためにチャーチを例の埋葬地へ埋めることを決意する。
死がいつか苦しみを終わらせ、すてきな思い出を始めさせること。
命の終わりではなく、苦しみの終わりであることをエリーに学ばされるためだ。

このように本来ジャドは、エリーを悲しませたくないから、等と言うような理由で禁忌を軽んじるような甘ったれ老人ではないのである。


しかし、ジャドは泣きながら次のようにも話す。
あの場所に取り憑かれたから、秘密を共有したくなった、と。
懺悔するのように語る。

このように、ミクマク族の埋葬地という秘密をルイスと共有したくなって教えてしまった、という点に関しては、思慮が浅いと感じざるを得ないが、
それと同時に埋葬地の呪いともとれる、あの秘密のパワーは凄まじいものだったと想像できる。

とはいえ、このジャドという老人はなかなか奥深い人物なのだが、それが映画版では割愛されているため、ジャドに対して苛立ちを感じた方も多いのではないか?



個人的見解、感想

リメイク版『ペットセメタリー』は正直恐怖演出に尽力を注ぎすぎて、キャラクターの奥深さや情緒に書けるが、リメイク版として、現代に打ち出すホラー映画としての完成度は高かった。

特に独自のストーリーがいい働きをしていて、姉ゼルダの死因である昇降口はオリジナリティがあり震える演出だった。

また、弟ではなく姉が死ぬ点はリメイク版ならではで、恐怖描写の嗜好によってリメイクかオリジナルかで好みが別れるように思う。
弟は不気味で可愛いチャッキー。
姉はバイオレンスな殺人気エスター。

ちなみにオリジナル版は89年公開なので、88年公開のチャッキーを見た人はきっと「リアルチャッキー」としてゲイジを捉えたことでしょう。


また、恐怖のエッセンスとして取り入れられた仮面の子供たちも目を惹く。
あれだけ印象的なのにただの香り付けで深い意味がなかったのは残念だが、アイキャッチなシンボルとしてキングのペットセメタリーが広く認知されるきっかけになってくれたなら私としては万々歳。

これを機にオリジナル版や原作小説に興味持ってくれる人が増えると嬉しい。



ちなみに、最初の画像は海外版のジャケット。
正直こっちの方がいい。
日本で映画が公開される際、ジャケットが改悪される問題は今に始まったことではないけど。

また、個人的にはオリジナル版の情緒溢れる演出が好みなのだが、リメイク版は“オリジナルに対してどこまで出来るか”、というすべてのリメイク映画共通の課題に対して、とんでもない成果を出したようも感じている。

リメイク版映画界でのクオリティとしては間違いなく上位だ。


また、この『ペットセメタリー』という映画はオリジナル版リメイク版どちらも、
“死をどのように受け入れるか”という大きなテーマの他に、“父親が抱える責任と人間的な弱さ”がテーマに描かれていると、私は考える。

スティーヴン・キング原作映画にその“父親が抱える責任と人間的な弱さ”というテーマは頻出していて、『シャイニング』や『ミスト』にも通ずるものがある。

女性が見ても十分面白い映画なのだが、男性が見るとより感じることが多い映画なのではないか?

そして、“インディアンの呪われた土地が、主人公達の人間的な脆さや弱さに付け入り破滅に導く”なんて構成はモロ『シャイニング』だ。
まったく違う趣の映画なのに構成やテーマが似通っていて、見比べると面白い。

オリジナル版に興味を持って下さった方はこちらも是非。
badendnihaimigaaru.hatenablog.com


というわけで、
今回も懲りずに、とんでもない記事の長さにしてしまった。
お付き合いくださった方ありがとうございました。




次回はたまには新作を、ということで『ジョーカー』のお話し。
色んな場所で評価や考察がされていて、今さら記事にすることでもないかなと思ったのですが、演技力に目が行きがちなのか、映像に関する考察がなされていないよう感じたので。

個人的な推測になるが、主人公アーサーがジョーカーになるまでの心境や人生が、目に見える映像と気持ちいいほど完璧にリンクしていたので、その辺りを解説していく。