映画『MAMA』考察。死の病に侵された妹。オープニングクレジットに隠されていた真実。

ダークファンタジーの帝王ギレルモ・デル・トロ総指揮の映画『MAMA』。
本作で姉妹が迎える最後には、とある“病気”が関わっています。この記事ではその“病気”について解説すると共に、映画に隠された謎を解説&考察します。

未視聴の方向けに映画の魅力とあらすじをご紹介しつつ、後半はガッツリネタバレしますのでご注意ください!


作品情報

MAMA(2013)
Mama
上映日:2014年05月17日/製作国:カナダスペイン/上映時間:100分

監督
アンディ・ムスキエティ

脚本
ニール・クロス
アンディ・ムスキエティ
バーバラ・マスキエッティ

出演者
ジェシカ・チャステイン
ニコライ・コスター=ワルドウ
ミーガン・シャルパンティエ
イザベル・ネリッセ
ダニエル・カッシュ

Mamaに関する映画 | Filmarks映画

あらすじ

ゆがんだ母性愛を持つ霊の狂気を描いた新感覚ホラー。アルゼンチン出身の新鋭アンディ・ムスキエティ監督が手掛けた短編作品を、『パンズ・ラビリンス』などで知られるギレルモ・デル・トロ監督の製作総指揮により長編化。謎多き失踪(しっそう)事件から5年ぶりに保護された幼い姉妹を引き取った叔父とその恋人が、不可解な恐怖に襲われる。『ゼロ・ダーク・サーティ』などのジェシカ・チャステイン、『オブリビオン』などのニコライ・コスター=ワルドーらが出演。

投資仲介会社を営むジェフリー(ニコライ・コスター=ワルドー)は精神的な病が原因で、共同経営者と妻を殺してしまう。その後幼い娘たちを連れて逃走し、森をさまよう中見つけた小屋で娘たちを手に掛けようとするが、えたいの知れない何者かによって彼自身が殺されてしまう。それから5年後、奇跡的に生きながらえた姉妹はジェフリーの弟ルーカス(ニコライ・コスター=ワルドー)に発見され、彼と恋人アナベルジェシカ・チャステイン)のもとへ引き取られるが……。

シネマトゥデイより引用

本作の魅力

この映画の何よりの魅力は今までに見たことない斬新なホラー演出にある。
しかもそれが中盤まで豊富にある贅沢仕様。
しかし、スイッチをオンオフするようなビックリ系演出もあれば、中盤はモンスター系の恐ろしさに頼り切りになるため、視聴者に尻すぼみな印象を与えてしまい、いかに恐ろしいかという点での評価はあまり高くないのも事実である。  
とはいえあらゆうホラー好きの方には是非見て頂きたい映画だ。




ここからネタバレ





オープニング考察 “病気”

多くの方がついファンタジーな雰囲気に流されてしまうこの映画は、現実的な目線で見ると、見えてくる世界が全く異なります。

ストーリー上では触れられてませんが、実は妹は狂犬病を発症しています。
作中で妹の様子がおかしいのは“野生化”ではなく狂犬病による“凶暴化”なのです。

そして妹が狂犬病になる過程を示したのが、オープニングクレジットのイラストです。
まずは狂犬病について解説します。


狂犬病は多くの場合、野生の小動物に噛まれることでそのウイルスに感染します。
1~3ヶ月の潜伏期間の後に発症します。
発症後は初期症状として、発熱、頭痛、倦怠感、食欲不振、嘔吐、咽頭痛などの症状を引き起こし、次第に知覚異常、筋の攣縮、興奮、運動過多、錯乱、幻覚などを引き起こし凶暴化します。

そして最後には昏睡状態を経て呼吸が停止する、致死率100パーセントの病です。
日本では狂犬病の発症例はもうありませんが、アメリカでは未だ多くあります。

それではオープニングクレジットから妹が狂犬病を発症するまでを振り返ってみましょう。



ここのイラストで例の小屋に取り残された妹がアライグマに噛まれました。


アライグマが死んでます、恐らく父親同様ママに殺されたのでしょう。
その後姉妹二人が描かれたイラストが三枚あり、それらは数ヵ月間の潜伏期間を表してます。




そして姉だけのイラストが二枚あり、妹だけのイラストに続きます。
ここで発症しました。初期症状の風邪のような症状によって妹が家で寝込んでいるため、別行動だったのでしょう。




妹が吐血しているのか、凶暴化した妹がネズミを噛み殺したのか。
その後に泣いている姉の顔のアップのイラストが映る為、妹の凶暴化を悲しんでいると推察しました。


またもネズミが死んでいます。
そしてこの後のイラストから姉妹が四つん這いのイラストが続き、本編がスタートします。

イラストから判断するのは難しいですが、妹が狂犬病を発症してしまったという解釈はかなり現実的であると考えられます。
妹は、もうこの時点で死ぬ運命なんです。


エンディング考察 “MAMAの奇行”

お次は話題のダイナミック散骨について。
クライマックスで実子の遺骨を手にしたママが、その遺骨をぶん投げるのだ。
そしてママは怒り狂って妹を取り返しに来る。

多くの視聴者が「成仏せんのかい」と心に思ったことでしょう。



何故あのような事が起きるのか。
ママの“目的”が深く関わっている。

目的とは?
中盤で政府が保管する遺骨を医師が取りに行った際の職員言葉を振り返る。
『亡霊を信じる?遺体はそのままだと分解して朽ちてゆく、人として認識できない程に、そこから出た歪んだ感情が亡霊となって何度も現れる。目的を果たすまで。』

これは謎解き系映画を得意とする、ギレルモ氏によるミスリードなのだ。

幽霊のママを見てれば遺骨が目的で間違いないが、本来の、ママが死ぬ前の精神病患者としての目的は?
何のために我が子を取り返した?
自らの手で愛し育むことに他ならないだろう。


それは遺骨では叶わない。
そして、自分を呼ぶリリーの声を聞き、遺骨を投げ打って、妹を取り返した。






メインテーマ考察

オープニングとエンディングを考察したところで、この映画の大きなテーマに関して。

私が思うにこの映画のテーマは“親のエゴ”である。
実の父親は無理心中を計り、叔母は姉妹と対話することもせず親権ばかり求める。
エゴまみれの大人達ばかり出てくるのだ、この映画は。

そして、姉妹に執着しまくりで姉妹を束縛しようとしたママ。
適度な距離感で子供たちを支えるアナベル
この相反する母性の対比なのである。


この映画は行き過ぎた我が子への執着に警鐘をならし、親子の関係のあり方を問いかける作品だったのでは、と私は捉えている。


本作はバッドエンドなのか

これを語るには、総指揮であるギレルモ・デル・トロについてお話しする必要がある。

かなりメタ的な解釈になるが、デルトロ氏のファンタジー映画はファンタジーでありながらファンタジーを否定して、とことん残酷な現実を視聴者に突きつけてくる映画なのだ。

一つの映画にハッピーエンドとバッドエンドの両方が確立する、それがデルトロ映画なのだ。



ラストシーンでは崖飛び降りた二人はたくさんの蛾に姿を変え、最後に蝶になった妹が姉の前に現れる。
蛾と蝶はそれぞれスピリチュアルな観点から見ると、蛾は蛍光灯に誘われ死んでしまう思慮の足りない虫だという点から、“嫉妬”や“好奇心”、“再生”を意味する。
そして蝶は“魂の象徴”を意味する。

こういった観点から解釈すると、妹の肉体は死滅したが、その“魂”はこれからも姉と共にあるなんてハッピーエンドな映画になる。

個人的には狂犬病に侵された妹が、死の運命に逆らえず死ぬ”という圧倒的バッドエンドだと思ってますが…

しかし、どっちが正解とかはないと思うので、お好みの解釈で映画を楽しんでいただければと思います!以上!




デルトロ監督の他作品についてはこちら
badendnihaimigaaru.hatenablog.com